クローバー的恋事情
藤沢さんも音に気付いて、小島さんを離した。その時、私はロッカー室へ止まっていた足を動かした。この場を離れよう。小島さんに気付かれたくない。


「あ、萱森さーん!良かったー、まだいて」


ヒールの音の主は榎本さんだった。


「あ、お疲れさまです。なんでしょう?」


「名刺が出来ていて、預かっていたのを忘れてたわ。明日、渡すけどとりあえず5枚だけ渡すね。家族の人に見せてあげたらいいわよ。きっと喜んでくれるから」


「わあ!名刺、もう持てるんですね。ありがとうございます」


会社と自分の名前が書かれた名刺は輝いて見えた。私も立派な社会人になった気分だ。


「あら?藤沢くんと小島さん…」


資料室前にいた二人が廊下へと出てきた。


「萱森さんだったかしら?がんばって名刺を配ってね」


「頑張るのは名刺を配ることじゃなくて、仕事だろ?」


「やだー、私ったら。そうよね。仕事、がんばってね」


天然風に話すのはわざとだろうか?いつも藤沢さんに甘えるように話す。仲が良いところを見せつけたいのだろうか?

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