夢のような恋だった


「ちゃんと鍵かけてな!」


地上から声がして、もう道路に出たのかとびっくりするくらい。

動く影を見送って、部屋に戻り鍵をかける。
クッションを背もたれにして座り、部屋の中を見回した。


「自信かぁ」


小さな頃、智くんと同じ保育園に通っていた時、年中さんだった智くんが『泣いてよ』って言って、私の強がりを体全体で否定してくれた。

無様な私でもいいんだよって言われたみたいで、救われた。

思い返せば、私を泣かせるのは大半が智くんだった気がする。

あの時も、小二の時に再開した時も、高校生になって再会してからも。

けど、大抵の場合私は救われてた。

おかしいよね。
泣いてるのに、いつも心が洗われたみたいに最後はスッキリしてた。

それはみんな、智くんがそんな私でも好きだよって言ってくれたから。

私は、智くんに好きでいてもらえる自分なら好きになれたんだ。

卒業してから、私達の関係はこじれてしまったけれど。
もう彼は戻ってきたんだ。

今なら、無理矢理に気持ちを曲げて彼を突き放す必要なんてない。

今更だと言われても、もう一度向かってみよう。


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