夢のような恋だった

「茂? ちっ、あいつ。騙されんなよ。アイツこそ紗優に気があるんだ」

「茂くんの気持ちは知らない。だけど、草太くんだって私を好きな訳じゃないんだよね。よくよく考えたら、付き合って欲しいなんて言われたこともないし」

「言わなくてもわかるだろ。好きだって言ったじゃん。それにあれだけのことしたんだから」

「うん。でも他の女の子ともしたんでしょ? だったらそれが付き合ってる理由にはならない」


ようやく彼の方をむいて告げると草太くんが固まる。

心外だ、とその顔が告げているようだ。
濃いソース顔だから、怒ると凄みがある。

話し上手で人付き合いが良くて、相手からフラれることなんてきっと今まで無かったんだろう。


「別に他の女の子のほうが良くなったらそれでもいいのよ。ただ私は、二股かけるような人とは付き合いたくないの」


なるべく感情的にならないように声を抑えて言うと、草太くんは首を横に振った。


「合コンは人数足りないから呼ばれただけだし。梨絵には彼氏がいるんだよ。その場限り。分かるだろ? 合コンってさ、そういうノリがあるんだよ。紗優はあまり外に出ないから分からないかもしれないけど」

「うん。分からない。だから理解できない人とは一緒に居られないでしょ?」

「紗優」

「とにかく帰って。私、仕事があるの」


つかつかと机に近寄ってきた彼は、絵筆を奪い取った。
絵の具が画板に跳ねる。
ここ数日間の努力が水の泡だ。


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