ジャスミン
『それ貸して。』

颯太郎はラフな服装に着替えると茉莉の腕の中にあるコートを指差す。

『あ…ありがとう。』

ハンガーを持っていた彼は茉莉から受け取ると手慣れた手つきでコートを整える。

その間茉莉はこの後のことが頭を過ぎり落ち着かない時間を過ごす。

(はぁー。どうしよう⁉︎久しぶり過ぎて緊張するっ!…ムダ毛の処理はしてたよね?あぁ!下着…もっと可愛いのに何でしなかったんだろっ⁉︎)

到底声に出せない悩みの無限ループに入る。


『はい、どうぞ。』

勝手にテンパり気味の茉莉の前に湯気の立ったカップが置かれる。

『あっ!カフェオレだ。』

思わず両手でカップに手を出すと緊張して強張っていた頬が緩む。一度口をつけると身体中に染み渡る温かさを感じる。

『やっぱりこの味だ…。』

気持ちの整理が付かず、避けていたこの飲み物はいとも簡単に茉莉の心をほぐしていくーー。


カップを両手で持ちながら伝わる熱をじんわり感じていると、颯太郎が柔らかい笑みを浮かべながら自らもコーヒーをついだカップを持って近づいてくる。

『さてと…。』

ソファが隣りに人が座った重みで僅かに揺れる。自分の心臓を打つスピードが速まったのを感じた。
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