ジャスミン
『…私たち色々あったけど、あなたのおかげでやり直せたし、こうしてかけがえのない宝物も授かったんだと思ってるの。だからあなたも必ず幸せになって。』

そう言い終えると部長と顔を見合わせ微笑む。その姿は、女としての幸せを取り戻し、またすっかり母のような雰囲気を漂わせていた。

『ありがとうございます。』

茉莉は香苗が素直に羨ましく感じた。それと同時に彼女の器の大きさと二人の絆の深さに自分には足りないものがこの二人にはあると実感した。

『そろそろ時間だな。じゃあ、倉田任せたぞ!…今までありがとう。』

佐伯部長は荷物片手に香苗を気遣いながら搭乗口の方へと歩いて行く。

『お元気で!』

茉莉の声に荷物を持つ方の手を高くあげた。


茉莉は二人の姿が見えなくなると、目に浮かぶ涙を拭って歩き出す。空港の出口を出たところで声をかけられた。

『倉田茉莉さんですよね?』

茉莉は声のする方へ振り返ると、数人の黒いスーツを着た男の人が立っていた。
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