ジャスミン
『何かあったのか?』

幸太郎が京子の側に寄り、両肩を優しく掴むと顔を覗きこむ。

『わたし…実家に荷物取りに行ってたの…。』

やっと聞き取れるような声に二人とも必死で耳を傾ける。

『そうだったよな…それでどうした?』

問い詰める訳でもなく幸太郎は京子を気遣いながら話を進める。

『幸太郎の実家の近くに来た時に、車が止まって…中から須藤さんたちと、ま…茉莉ちゃんが出て来て家の中に連れて行かれて…。』

ガタンッ
『は?茉莉⁉︎』

予想もしない言葉に冷静さを失って立ち上がると京子に近付いて問い詰める。

『それは間違い無いのか⁉︎本当に茉莉だったのか?』

余りに必死の形相だったのだろう。幸太郎が颯太郎を落ち着かせるように席に座わらせる。

『ちょっと落ち着け!京子も座れよ。』

颯太郎の勢いに驚いたものの、促せられるように幸太郎の隣りに座る。

『…須藤が一緒にいたってことは、恐らく茉莉ちゃんの意思で家に来た訳じゃないだろうな。』

『あぁ…。』

幸太郎の予想は大方のところ間違いないだろう。須藤は昔からの母の側近だ。秘書として完全な忠誠を誓っている。
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