ジャスミン
外の冷気で冷え切った車内は、まるで颯太郎の心の中を表しているかのようだ。颯太郎はハンドルを両手で掴むとそのまま額をつける。


(俺は…。)

茉莉と一緒になる為には彼女の生きがいを取り上げてしまう事になるかもしれない。早紀江に言われたことは心の何処かで気づいていた事だった…。

逃げる事を許さないと言われているかのように真っ直ぐ射抜くような早紀江の視線は容赦なく颯太郎の弱った心を刺す。

静かに車のエンジンをかけると宛もなく走りだす。オーディオからは、もうすぐ迎えるクリスマスの音楽が流れてくる。それを聞き流しながら颯太郎は無言でただ真っ直ぐ前を見つめていた。


無意識に車が辿り着いた場所は…二人で来た高台。

前は紅葉が綺麗で彩り鮮やかな木々が視界一面に広がっていたが、今はその木々たちも葉を落とし、ただ上に向かって立ちそびえている。

風が吹くと木々が微妙に揺れ動き、容赦なく冷気が颯太郎の身体を覆う。
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