ジャスミン
茉莉と出会ってから日にちこそ経過していないが、ガラッと颯太郎の人生を変えた。

クールで仕事一筋の女は、ちょっとした事にも頬を紅く染めるひたむきで少し不器用な可愛い女性だった。

そんな彼女に見る見るうちに惹き込まれ、長年頑なに被り続けた鎧はあっという間に剥がされ、人と通じ合う喜びを教えてくれた茉莉に俺は何を返せるのだろう…。

きっと今頃、茉莉も母親から俺と同じような事を言われて悩んでいるに違いない。

本当だったら今すぐにでも茉莉の近くに行って抱きしめてやりたい…だが、今の俺にそんな資格はないのかもしれない。

颯太郎はやるせない気持ちを握りこぶしに託すようにギュッと握り締める。


『足りないものか…。』

早紀江に言われた言葉を思い出しながら、これから自分がすべきことを考える。


辺りは夕暮れへ向かう頃、高台に預けていたすっかり冷え切った身体を起こすと車に向かって歩き出した。

その表情は何かを決心したのか、口を固く閉じながら押し寄せる感情を必死でコントロールしているようだった。
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