ワケアリ男子の秘密
うわー!
私、ななな、なんてことを。
恐る恐る隣を見ると、先輩は
肩を揺らして笑っていた。
「アハハッ!そうかそうかー....だけど」
その時だった。
いきなり視界が反転したかと思ったら
私は床に寝かされて、
腕を押し付けられていた。
と同時に俺を見下ろす先輩の長髪が顔に掛かる。
「お前が思ってるほど俺はモラルのある人間じゃないかもしれないよ。」
先輩が目を細めて言った。
「じゃ、俺は先輩にモラルがある、に賭けます」
「俺はここでお前を犯すことなんて簡単だぞ」
先輩の瞳は涙の膜を張っているように見えた。
ウソだ。
先輩はウソをついてる。
「先輩はそんなことはしません。」
私は先輩に真剣な眼差しを送りながら言った。
「俺のことが気持ち悪くないのか?」
「ちっとも。むしろ、かわいそうです。」
先輩は怪訝な表情を浮かべた。
「.....かわいそう?」
「はい。先輩は人を信じることができないからです。」
「....どういう意味?」
「僕は先輩の側に居るって言いました。けど先輩は僕の気持ちを信じられずに、心にもないことをさっきから口に出している。違いますか?」
先輩は黙った。
目が合ったまま
どれくらい時間が経っただろう。
先輩は起き上がり、両手をヒラヒラさせて言った。
「はいはい、降参。
その通りだよ。人を信じるのも関わるのも怖いよ、俺は......」
そう言って肩を竦めると
視線を落としてボソリと
「.......臆病者なんだよ。」
と言った。
前髪の隙間から覗く、
伏せがちな瞳から俺は目が離せなかった。
こんな目をしてる先輩なんて、
ますますほっとけないよ。
「じゃあ、俺、先輩の側に居てもいいですよね!」
私はにっこり笑って言った。
束の間、先輩は俺を見ると
前髪をくしゃっとかき揚げて
ため息をついた。
「....勝手にすればいいさ。」