ワケアリ男子の秘密

谷田の戸惑い




あの日から──私は
あのサクラの所───先輩の事が
忘れられずにいた。



あの長い廊下を通るけど

サクラの木の下には誰も居なくて。



あの日の事が夢だったんじゃないか。

そう思えてくるほど時間が経ったある日。





また先生のお使いで、図書室まで資料を運ぶことになった。

今日こそは絶対に、勝たない。

洋平、俺を含む5人が
男気じゃんけんをする。


いざっ
男気じゃんけんじゃんけん────
─────
───
──




結局こうなるの。
俺の手には大量の資料が渡された。


「よろしく~谷田君♪」

「洋平てめーあとで覚えとけよ!」


プリントで前が見えてない。


あいつらめ。
少しは手伝えや。


よろめきながら私は図書館へと
歩いた。



すると、

ドンっと誰かにぶつかった。


「あ!すいません!」




バサバサーっと舞い上がる資料たち。

それを抱き止めようと
前のめりになる私。

全てがスローモーションのようだった。

そして

ドン!という音と共に私は倒れた。


「いって!」


ぶつけたところをさすり
悪態をつきながら


私は資料を集めようとそれに手を伸ばした。

その時だった。
偶然同じものを拾おうとした手と手がぶつかる。

「ごめんね。大丈夫?」


見上げると
申し訳なさそうな顔をした
朱雀先輩がいた。

「すすす朱雀先輩!」



「派手にやらかしちゃったね。
手伝うよ」


そう言って先輩は
片付けを手伝ってくれた。


「図書館に行くんでしょ?持つよ」


そう言うと先輩はニッコリ笑った





私と先輩は二人で並んで歩いた。


「図書館、とうちゃーく!!腕だる....」


私は情けなく細い腕をさすった。

仕方ないよ。女だし。



「あ!先輩、荷物運び、ありがとうございます!!」



先輩は優しく笑って言った。


「ん。ぶつかったの俺だし。当然のことをしたまでだよ」


先輩の笑顔っていいな。


優しくって、日だまりみたいで。
でも、
自覚無いんだろうなぁ....


「ん?俺なんか顔ついてる?」

しまった!見すぎた!


「あぁ!はい!取りますよ!今!」


なんでショーもない嘘ついた...俺。


ホントは、なにも着いてないけど、
とったふりして済ませばいいか。


先輩の頭に手を伸ばした瞬間、


先輩に腕を捕まえられた。



え?えーーー!


先輩の顔が近づいてくる。

う、うわぁーー!


どおしよぉーー!

私は
ぎゅっと目を瞑った。



「ねぇ...俺と居てそんなに無防備でいいの?」


え?目を開けると

うつ向いて
揺れてる朱雀先輩の瞳があった。


え.....そんな顔しないで先輩。



見てる私が苦しいよ。


「朱雀先輩....?どうしたんですか?」


朱雀先輩は目を見開いて驚いた顔をした。


「え?まさか...聞いてないの?」


先輩はちょっと考えてから
私を見た。

「知らないなら教えてあげるよ。」


朱雀先輩の端正な顔がゆっくりと近づいてきた。


そして耳元で囁いた。



「俺さ...実はさ....男にしか気が無くって。噂聞いたことないの?」


先輩は私から顔を離すと
意外そうな顔をして私を見た。


え!え?


「先輩がですか?男を??」


「そ。だから...
ここに俺と一緒に居たら危ないかもよ。
図書館、だぁーーれも居ないし。」


先輩は笑みを浮かべた。

左の唇の端を吊り上げて笑う先輩は
まるでキツネのようだった。




前髪が目にかかってる。
顎で切り揃えたストレートヘアが
中性的でキレイな顔が


夕陽に照らされて妖艶で....




でも
うつ向いて何かを憂う
瞳は揺れているように見えた。




「先輩...先輩は辛い思いをしたんですか」


気づけば私はこんなことを聞いていた。


「辛い思い....?」




「先輩は、さっきからとっても悲しそうな目をしてます」



先輩は驚いて目を見開いた。




「....」

少しの沈黙。


長い睫毛を伏せて先輩は話し始めた。


男性にしか興味を持てないことで
悩んでいること。


初恋がトラウマでもう
恋はしないと決めたこと。



できるだけ他人と距離を置いていること。





だからサクラの木の下でいつも一人で。


先輩は寂しかったんじゃない?
一人で何もかも悩んで抱え込んで.....
こんなにも傷付いて。



私は涙を止めることが出来なかった。




ぎょっとした顔をして先輩は駆け寄ってきた。



「なぁ!俺なら大丈夫だから!泣くなよ!男だろ!なっ!」


「...じゃないです」


「え?」


「大丈夫じゃないですよ!こんなに一人で全部抱え込んでっ!」

先輩は面食らった顔で私を見た。



「...悪かった。ちょっとビックリした?」



「はい。ビックリしました。でも、これだけは俺言えます。」

そして先輩を見て私は言った。




「俺は先輩を一人にしたりなんかしません。」




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