お見合いの達人
「やあ、こんにちわ」
どきっ
久しぶりに聞く声に心臓がはねる。
「は、蓮沼さん、こんにちわ」
「店舗3階になるんだってね?
お隣さんだね、よろしく。
これから毎日会えると思うと嬉しくてたまらないよ」
「はあ、そうですね」
作り笑いしながら、
あいまいな返事をする。
本部へ異動になることは言わないで行こうと思っていた。
できるならこのままフェイドアウトしたいのだ。
あれから何度も食事に誘われたけど、
のらりくらりと交わしていた。
今も
『最近見つけたレストランがあるからまた行きましょう。』
とか、
『今度できた水族館に行きませんか。』
とか、
誘われ真っ最中。
『今はとても余裕がなくて』
とスペースを指して笑顔でお断りした。
彼もしょうがないねと残念そうだ。
「……じゃあまたね」
同じモール内でむげにもできなかったけど、
あの趣味はついていけない。
アレさえなければなかなかの優良物件だったのにな。
『アレ……』
ハイヒールで踏みつけている自分を想像して身震いした。
アレが癖とかになったら私自分を嫌いになりそうだよ。