お見合いの達人
「あの」

「あ、こちら、ええと蓮沼永輝さんとおっしゃって、

 さっき一緒にお話しして、職場の知り合いっていうか、

 あ、こじんじょうほ……」


「蓮沼です。

 あそこのモールが職場で彼女とは顔見知りの仲です。」


「ああ、そうなんですか、僕は彼女とさっき知りあって、

 ビンゴで意気投合しまして、

 食事でもしようかと出てきただけですから、

 でも、お知り合いが一緒でしたら、

 そちらの方を優先してください。

 僕はここで失礼します。」


「え?奏さん?」

そそくさとまるで何かから逃げるように、

さっきまでいい雰囲気だったのはなんだって感じで、

わたしはポカンとして立ち尽くした。


「やっぱり。あの人は、あやしい人だったんですね」


「え?」


「あの人アラシらしいんです。

 まあ、確かではないんですが、

 運営の人が、あなたたちが出て行ったあと、

 彼と面識会った人が話していて、

 あわてて僕が追いかけてきたわけです」

「アラシって?」

「お見合いパーティで、女の人引っ掛けて結婚詐欺みたいなことやってるらしいですよ」

「結婚詐欺!?」

そんな馬鹿な。

わたしなんて普通のOL引っ掛けてもしょうがないのに。

「今回は大方あなたの賞金狙いかもしれませんね」

「10万円ですか?

 でも、半分にしましょうっていったら、

 いらないって……」


「全部いただこうと思ってたんでしょうね。

 更に絞り取れればなお良しって感じで」


ちょっといいなって思ってしまった自分が恥ずかしい。

「戻りませんか?」


私は差し出された手を釣ることはできず首を振った。

永輝さんは困ったように笑うと、


「荷物だけとりに戻らせていただけませんか。そうしたらお宅まで送らせてください」

「大丈夫ですから」

「だめです。あの人がまだその辺にいるかもしれないのに、

 僕があなたを一人にするわけないでしょう」


「ごめん…なさい」

口調がやや強かったのと、

 一人になることが急に怖くなったのとで、

 自然に涙がこぼれた。


まずい化粧がはげる。ミーコちゃんがせっかくきれいにしてくれたのに。
















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