佐藤さんは甘くないっ!

……ど、どうしよう。

彼は道路にしゃがみこんだまま動かない。

ここは滅多に車が通らないから大丈夫だとは思うけど……けど。


「まだ気持ち悪い?立てるなら……」


地面に倒れていた自分の鞄を拾い上げると、何かがぱさりと落ちた。

なんだろう、と思った矢先に彼がそれを手に取っていた。

ああ、社員証だ。危ない。万が一失くしたら佐藤さんに殺される…!

内心冷や汗をかいていると、彼は怒りを抑えたような声音で言った。


「……お姉さんさぁ。就職ってそんな大事なわけ?」


一言では表せない、色々な感情が織り交ざっているように聞こえた。

思いがけない問い掛けに目を瞬かせる。

彼の何とも言えない表情を見て、わたしは言葉に詰まった。

簡単に、答えてはいけないような気がした。


「その答えは後にして……ちゃんと休めるところに行こうか」


まだふらふらしていた彼の身体を支えながら、近くにあった公園のベンチに彼を座らせた。

身長はとても高かったけど、ひょろっとしていたのでなんとか支えることができた。

ベンチに座るなり、やはり相当辛かったのかすぐに横になってしまった。

蛇口の水で濡らしたハンカチを彼の額に置くと、気持ちよさそうに目を閉じていた。

……なんだか野良犬みたい。

さっきは今にも噛み付きそうな雰囲気だったのに。

もっとも、わたしへの怒りというより自分自身に対してって感じがしたけど。
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