佐藤さんは甘くないっ!

しかし、わたしの心臓の準備はまだできていなかった。

ていうか本音を言うならびっくりしすぎて手に持っていたグラスを落っことすところだった。

なんなんだ、もしや最近はサプライズが流行っている…とか?

今週は頭からサプライズ続きでわたしの心臓はだいぶ寿命が縮んでしまったことだろう。

そんなことを知らない律香は黙ったままのわたしを、にやついた顔で見つめている。

……ぐぬぬ、腹が立つ。


「黙ってるってことは図星ー?」

「い、いや、その、」

「相手は会社のひと?」

「!?な、い、あの、」

「ははーん。同じ部署だな?」

「!?!?律香はエスパーなの!?」


わたしが本気で涙目になっていると律香がげらげらと大口を開けて笑い始めた。

そ、そんなにわたしの反応が面白かったのかな……。

品の欠片もないがそれは黙っておいた。

もはや図星の嵐すぎてわたしの体力ゲージは真っ赤で、律香を攻撃する余裕などない。

瀕死というやつなので、誰かに回復の薬を与えて欲しいレベルだ。

律香はお腹痛いわーなんて言いながらお酒を呑む手を休めない。

その普段通りの様子にわたしはますます困惑してしまう。

ノーヒントのはずなのにどうして律香には全てお見通しなんだろう……も、もしや、相手も…!?


「もしかして……」


ごくり。

律香は意味ありげな笑みを浮かべたままにじり寄ってくる。

ちょっと怖い、いやだいぶ怖い。

そしてやっぱり左手には缶ビールを持ったままなので、律香は本物の酒豪で間違いなさそうだ。

わたしは半泣きのまま硬直しているので逃げることは叶わなかった。

自分が思い描いていた手順を悉く崩されてしまい、頭の中は軽くパニック状態だ。
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