佐藤さんは甘くないっ!

幸いにも佐藤さんが抱きしめてくれているお陰で真っ赤な顔を隠すことができた。

しかし恥ずかしいものは恥ずかしい。

抱きしめられるのは初めてじゃないのに、妙に緊張しているのが自分でもよくわかった。


「さ、佐藤さんって、すごい…その……甘い、ですね…」

「そうか?柴の事が好きなんだから普通だろ」

「だって!会社にいるときはあんな鬼みた……いや、とっても厳しくて」

「それは仕事の効率落として、お前への気持ちを足枷にしたくないからだ。俺が上手く立ち回れない所為で柴に迷惑を掛けるようなことは絶対にしない」


きっぱりと言い放った佐藤さんの声は凛としていた。

佐藤さんの真摯な気持ちと覚悟を突き付けられて、また胸が苦しくなる。


「まぁでも俺は隠す気ないからな、仕事に影響が出なければ」

「ぜ、絶対出ますよ!!周りのひとが気にしますから!!」

「……お楽しみは来月までとっとくか」

「なんの楽しみですか!?」

「…………それまではあいつを牽制しねーとな」


最後にぼそっと佐藤さんが呟いた言葉は聞こえなかった。

どうせよからぬことに決まっているので敢えて聞き返すことはしない。

佐藤さんは再びわたしを抱きしめる力を強めると、耳元でそっと囁いた。


「俺がお前に厳しくするのは―――必死で頑張る柴が好きだからだ」

「!?!?!?さ、佐藤さん!!!」

「……せっかく良い場所に来たし、このままするか」

「さっき自分が言ったこと思い出してください!!襲わないって言いましたよね!?」

「……チッ。んじゃ今日のご褒美な」


ちゅっ。

可愛い音と共に、触れるだけの唇。


「だ、だから、こういうこと全部禁止ですってばー!!」

「顔真っ赤にした奴に言われてもな」

「!!!」


お試し交際スタートから5日目。

ようやく素顔の佐藤さんに少し近付けた気がした。
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