Caught by …


 一人きりの夕食は、ほとんど残してしまった。多分、カフェで食べたパイがお腹を満たしているからだ。

 食器を洗って、それを一滴の水も残らないように丁寧に、時間をかけて拭いた。それから、食器棚へ元の場所に戻す。

 一人きりの部屋。次の授業の予習も、寝る前に読む小説も、なにもかも誰に邪魔されることはない。

 私は、どちらかというと一人が好きだ。大勢の中にいると息がつまり、孤独を余計に感じるから苦手。一人の方が誰にも気を使わずにすむし、気楽……なのだが。

 私の手元で開きっぱなしになって、一文字も読み進んでいない本を閉じた。

“もう、会わないって?”

 彼の声が耳の中で何度も反芻する。

“ちゃんと、どういうことか説明しろ”

 彼は、すごく怒っていた。

“ボーイフレンドに俺のことが知られた?”

 私はとても冷静に話せたと思う。けど、それは電話の声だけだった。

“だから、もう俺は不要だって、そう言いたいのか”

 強く噛み締めた唇。溢れて出てしまいそうになる感情は胸を抑えても意味がなくて、だから、私は「サヨナラ」の一言で電話を切った。逃げたんだ。最後の電話だったのに。私は、逃げた。

 どうやって帰ったか思い出せない。気づけばお風呂に入り、部屋着に着替え、夕食を作っていた。

 携帯は電源を切っていて、母親やトムに連絡をいれなければいけないのだが、なんだか面倒で鞄に放り込んだままだ。

 レイが不要だなんて、そんな訳がない。私の唯一の居場所なのに。今だって、体中の水分を使い果たしたって止まらないのではと思うほど、涙が止まらないのに。
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