Caught by …
着替えてリビングに入ると、温かくて良い匂いがした。キッチンを見れば、母の後ろ姿があった。帰ってきた時も思ったけれど、随分痩せて小さくなってしまったように見える背中に、私は少しだけ悲しい気持ちになる。
物心ついた時から私にとって、母親は絶対的な存在だった。
それが、私よりも弱く頼りないもののように見えて、戸惑いと不安がそんな気持ちにさせるのだ。
「おはよう、セシーリア」
「おはよう」
私に気づいた母が、盛り付けたサラダをテーブルに運びながら笑顔を向ける。
「今日はガーナーさん達を誘ってディナーを、と思ってるの。だから忙しくなるわ、あなたも手伝ってね」
ガーナーさん達というのはトムと、彼のご両親のことだ。
「トムさんへのプレゼントは用意できてるの?」
「ええ」
私の返事は、少しばかり投げやりな響きを持たせていて、勘の鋭い母親の動きが一瞬止まった。席に腰かけた私が恐る恐る目線を上げれば、疑惑に満ちた目と目が合った。
「もしかして、あなたたち“何か”あったの?」
私の真正面に座った母の、その冷たい表情。私は無意識に息を潜めていた。
あの時と同じだ、と思った。姉が家を出る時と。
“あなたにはデザイナーなんて向いてないわ”
最初で最後の大喧嘩。始終、母はその表情、しわ一つ動かさないで反抗する姉を許さなかった。
「何もないわ、心配しないで」
姉は自分の気持ちに嘘をつく人じゃなかった。だけど私は違う。私は弱い人間だから、悪い方向に進まないように、安全な道を選ぶ。
物心ついた時から私にとって、母親は絶対的な存在だった。
それが、私よりも弱く頼りないもののように見えて、戸惑いと不安がそんな気持ちにさせるのだ。
「おはよう、セシーリア」
「おはよう」
私に気づいた母が、盛り付けたサラダをテーブルに運びながら笑顔を向ける。
「今日はガーナーさん達を誘ってディナーを、と思ってるの。だから忙しくなるわ、あなたも手伝ってね」
ガーナーさん達というのはトムと、彼のご両親のことだ。
「トムさんへのプレゼントは用意できてるの?」
「ええ」
私の返事は、少しばかり投げやりな響きを持たせていて、勘の鋭い母親の動きが一瞬止まった。席に腰かけた私が恐る恐る目線を上げれば、疑惑に満ちた目と目が合った。
「もしかして、あなたたち“何か”あったの?」
私の真正面に座った母の、その冷たい表情。私は無意識に息を潜めていた。
あの時と同じだ、と思った。姉が家を出る時と。
“あなたにはデザイナーなんて向いてないわ”
最初で最後の大喧嘩。始終、母はその表情、しわ一つ動かさないで反抗する姉を許さなかった。
「何もないわ、心配しないで」
姉は自分の気持ちに嘘をつく人じゃなかった。だけど私は違う。私は弱い人間だから、悪い方向に進まないように、安全な道を選ぶ。