Caught by …
 私が泣いているといつも側にいてくれた姉。私は側にいてやれることが出来なかった。もしも、あの時、私が一緒だったのなら、違った今があったのか、私には分からない。何が出来たのかも。

 姉の失くした大切な、かけがえのない“モノ”は自分の命を亡くしても守りたかったのかもしれない。

 あの人は、その身に小さな命を授かり、そして……消してしまったのだ。


 遠くに誰かの声が聞こえて、私は重たい目を開いた。まだ少し暗くて、視界がぼやける。暫くすると、声は近づいていたが、何かを隔てているような響き。

 ベッドに寝たまま目だけを動かして辺りを見渡すと、最近ではすっかり見慣れたアパートの部屋ではなくて……。

「セシーリア?まだ寝てるの、もう朝よ」

 花柄の壁紙に、祖母から貰った勉強机、家族写真や学校行事で撮った写真が飾られているタンス、幼い頃から持っていた人形たち。

 そこは実家の、私の部屋だった。

 冬休みに入り、クリスマスは実家に帰るという約束を守って、帰ってきていた。

 時計を確認すると、いつもなら寝ている時間だった。母の朝が早いことをすっかり忘れていた。

「朝ごはん、用意してるわよ」

 私は「わかった」と短い返事だけを返して寝返りをうった。……子供の頃、こうして二度寝することがよくあったな、と思い出す。すると必ず、ベッドの中に入ってきて、母に怒られるまで一緒に寝たあの人の温もりも。

 今の私を、包んでくれる温もりは当然ない。私は全てのことから逃げているのだから。目を閉じると、涙が流れ落ちていた。
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