Caught by …
 やけくそに囃し立てる私に、彼の綺麗な顔が怖いくらい歪められていく。だけどそんなの関係なく、鞄をあさって財布を取り出す私の手を、彼は強引に止めさせて苦しいほど抱き締めた。

「や、やめてよ…っ!あなたは今日初めて私を知ったくらいで、偉そうに慰めるなんて。私の事なんて、どうでも良いくせにっ」

「黙れ、無理に強がるな」

 私を抱き締めるその腕の逞しさに溢れる涙を止められず、彼の背中に手を回すとぎゅっと力を込められる。もう限界とばかりに私は声を出して泣いた。

 ずっと、求めて仕方なかった。

 私は強くなんてないのに、弱さを見せる場所がなくて。

 期待されることに誇りを持っていたのは最初だけ。

 その重みに、もう大分前から限界を感じていた。

 やっと見つけたと思った場所も、あの人たちの監視下。

 私は天才でもないし、できる子でもない。

 勉強だって嫌いで嫌いで、ほんとは周りの子たちと同じようにお洒落をしたり、思いっきり笑って泣いて遊んで…素直なままに生きたい。

 親と真正面からぶつかれない弱虫な私が、大嫌い。

 すぐに悪い方へと物事を考える私も、過去にとらわれる私も、大嫌い。


 …嗚咽混じりの、むちゃくちゃな私の叫びを彼は黙って聞いてくれた。返事の代わりに頭を撫でる大きな手は、私を睡魔へと吸い寄せていって、私はいつの間にか意識を手放していた。

「……悪かった」

 彼の呟きが何に対してなのか、どうしてそんなに辛そうなのか、聞くことはできなかった。
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