Caught by …
 少しドキリとした私の心。けれど、すぐにいつもの装いをしてみせる。

 相手に不快感を与えない笑顔。

 普段通りの落ち着き。

 ある一定の距離を保った会話。

 それらが今の私を支えている。深い関わりは不必要。きっと誰だって、そう思ってる。
 

 凍えるような寒さが、厳しくなりつつある、冬。

 あの『迷子の子猫』の姿を、しばらく見なくなった。

 誰かに拾われたのか。町から出てしまったのか。それとも、ずっと待っていた人が彼のもとに現れたのか。

 …こうして、訳もなく悩み、思考全てが彼で支配される私に、私は戸惑うばかり。

 たったの数週間。彼が見えなくなって。会えなくなって。

 それだけ…なのに。


 私は足早に教室から出る。これ以上、ベッテからの追究を逃れるため。早く、いつもの私に戻るため。

 もう授業は終わったし、今日はボーイフレンドとのデートがある。どんな話しをするのか考えなきゃいけないし、明日の予定も確認しなきゃ。

 部屋に帰れば、大学生になって寮生活が始まってから続けている母親への電話も忘れてはいけない。

 一度でも忘れてしまえば面倒なことになるから、それだけは避けたい。

 …以前、そうなった時に尋常じゃないほどの着信履歴と留守電が携帯の画面に出たことを思い出すと、今でも背筋が凍る。
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