黄昏に香る音色 2
「直樹…」

「何だよ」

和也は直樹を見ずに、きいた。

「速水とは、上手くいってるのか…」

「あ、ああ…まあなあ」

顔を真っ赤にして、口ごもる直樹。

和也は目をつぶった。


「直樹」

「何?」

和也は、直樹に微笑んだ。

「大切にしろよ」

「ああ…大切にしてる」

和也は、ドアに向かって歩きだした。

「帰るわ」

「和也…」


ドアの前で、和也は立ち止まり、振り返った。

「もし…ここに…戻りたいと言ったら…怒るか」

直樹は呆れたように、

「お前の家だろ」


「今は…」

和也は、店内を見回した。

「今も、お前んちだ」

直樹は言い切った。

和也は苦笑する。


「直樹…」

「何だ」


「家賃はいらないぜ。いつも言ってるが…こんなに綺麗にしてくれているのに…」

「俺が借りてるんだから、当然だ」

「しかし…友達だぜ」

「友達だから、こういうことは、ちゃんとしないと」


「ったく…」

「けじめだ」

「ばかが…」

和也は笑う。そして、頭をかくと、

「じゃあ、直樹。おやすみ」


「和也…」



笑顔を直樹に向けながら、和也は、ドアを開けた。

「おやすみ」

直樹の言葉を背にして、

和也は歩き出した。

彼の大切なものを確認して。


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