黄昏に香る音色 2
「あたしは、酷い女…」

志乃は、香里奈を見つめ続ける。

「あたしのお姉ちゃんが…死んだのも、あなたのせいじゃないのに!香里奈ちゃんのせいにした…」

「志乃ちゃん…」

「あたし…初めて嫉妬したの…香里奈ちゃんの歌に…あたしとは、レベルが違うと…」

志乃の目に、涙が溢れた。

「だから…あなたに歌うなと言ったの…。かなわないから…」

「志乃ちゃん…」

「あなたの歌が、好きだったのに…ごめんね…」

志乃の手に、力が入る。

「香里奈ちゃん…もう歌っていいの…。あたしのことは気にせずに…自由に歌っていいの…」

遠くから、救急車のサイレンが近づいてくる。

「あなたの歌は、最高よ。誰にも負けない」

救急車が止まった。

「あなたのお父さんにも…だから…歌って、香里奈…」

救急隊員が、タンカーを持って、現れた。

「けが人を運べ」

「香里奈ちゃん…歌って…聴かせてほしい…あなたの歌を…」

タンカーに乗せられても、

救急車に乗るまで、

志乃は、手を離さなかった。

消えていく救急車を、見えなくなるまで、見送った香里奈。

完全に見えなくなった後……そばにいた直樹の胸の中で、泣き崩れた。



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