黄昏に香る音色 2
流れる恵子の歌声が、香里奈に絡み付く。

直樹の声が、香里奈に勇気をくれる。

ただ話すだけでも。

「なぜ、こんなことをしてるのか…お父さんに、きかなくちゃならない」

しばらく、じっときいていた直樹は、

ゆっくりと口を開いた。

「そうだね。そうしなくちゃいけないね」

直樹は、言葉を一つ一つ考えながら、

「俺は…両親と話した記憶があまり、ないんだ…だから」

恵子の歌うマイフーリッシュハートが、切なく部屋を包む。

「わからないことがあったら、直接きいたらいい。生きてるんだったら、家族だったら、親子だったら、直接ぶつかった方がいい」

「うん」

香里奈は頷いた。

「ナオくん。今度のコンサートに呼ばれてるの」

「いつ?」

「明日の夕方」

「俺もいくよ」

「ダメ。一人で行きたいの」

香里奈の決意に、

直樹は受話器越しに頷き、

「わかった。でも、会場までついていく」

直樹の口調が、強くなる。

「速水さんを守りたい」

香里奈は、直樹の言葉が、
「ありがとう」

うれしかった。


明日、香里奈は父に会う。

もう気持ちは決まった。

< 196 / 539 >

この作品をシェア

pagetop