黄昏に香る音色 2
「ただいま…」

和也は、店の扉を開いた。

「おかえりなさい」

「おかえり」

律子の声の後に、直樹が続く。

「直樹…」

和也は驚き、

「お前…バイトは?」

直樹はキャタツに乗り、天井近くを、ぞうきんで拭いていた。

「ああ、今日は休んだよ。明日、店開けると、律子さんが言うから…大掃除だ」

「お前…」

直樹は、キャタツから降りて、和也の顔を見、

「何か、いいことあった?」

「え?」

驚く和也に、

直樹は、キャタツを動かしながら、

「表情が明るいから…」

和也を笑い掛け、

「まるで、重い荷物を降ろせたような…清々しい表情だ」

和也は目をつぶり、

呟いた。

「かなわないな…」

目を開けると、

「俺も手伝うよ」

「じゃあ…母さん、仕込みするから、後はよろしくね」

律子から、モップを受け取り、和也は床を掃除する。

新たなる旅立ち。

今、始まったばかりだが…和也たちはこの上なく、幸せだった。

店に久々に笑みと、

暖かさが戻ってきた。

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