黄昏に香る音色 2
遠くで、香里奈の歌声が聴こえた。

遠退いていく意識。

啓介は、倒れていく。

もう手で、支える力もない。

そのまま眠るだけだ。

そう思った瞬間………

啓介の体は、誰かに受け止められた。

華奢な体だが、

暖かく、

懐かしく、

愛しい。

「やっとたどり着いた」

啓介の薄れた視界の中に、飛び込んできたのは…。


「明日香…」

顔を、涙でいっぱいにした明日香だった。

「もう大丈夫だから…今、救急車を呼んだわ」

明日香は、啓介を支え、

「さっき、大輔に会ったの。あなたの様子がおかしいと…」

それを聞いて、啓介はフッと笑った。

「あいつ…」

「あまり…しゃべらない方がいい!」

「明日香…俺は…」

「今はしゃべらないで」

「俺は…俺は…酷いことをした…」

「啓介…しゃべらないで」

「お前を…裏切った…」

「…」

「お前を裏切った!」

明日香は目をつぶり、

「そうね…酷いことをしたわ」

「明日香…すまない」

「何が酷いって…あたしに何も言わず、姿を消したこと!」

明日香は、啓介を抱きながら、

「勝手に消えたことよ!」


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