黄昏に香る音色 2
「明日香…」

「あたしたちは、家族なのよ!一人で背負わないで」

「俺は…裏切った…。お前に…お前たちに…許されるはずもない」

「許すも、許さないも…」

明日香の瞳は、涙を止めない。

「あたしはまだ、何もきかされてないわ!」

明日香は叫んだ。

「夫婦なの!家族なの!恋人なの!そして」

明日香は、啓介を少し離し、

啓介の顔をのぞいて、

「大切な人なの」

思い切り微笑んだ。



大勢の人が、走ってくる音がした。

「明日香…」

啓介の体から力が抜け、

いきなり重くなる。

「啓介!!」

明日香が絶叫する。

通路から、救急隊員が飛び込んできた。

明日香から、啓介を引き離すと、

救急隊員は、上着を脱がせた。

出血が酷い。

「タンカーを!」

急いで、啓介をタンカーに乗せると、

「急げ!出血が酷い」

「啓介!」

タンカーで運ばれる啓介に寄り添い、

明日香は走った。

もう…啓介の意識はなかった。

通路を走りながら、

「啓介!」

明日香は、何度も叫んだ。


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