黄昏に香る音色 2
優はあの日から、

あの様子が、心から離れなかった。


タンカーで運ばれていく直樹と、

そばで寄り添う

香里奈。

それを、ただ見送るだけの自分。

客観的な第三者の視線が、ただ見送るだけの

何もできない自分を映していた。

(あたしは…)


優は、唇を噛み締めると、直樹のいる教室の前を、

通り過ぎる。

決して、教室の中に目をやらない。

諦めた訳じゃない。

今は…。

(あなたと、あたしの距離は離れてる)

近づくことも、交わることもないかもしれない。



優は、颯爽と廊下を歩く。

その姿を見て、男生徒が振り返る。

女は変わっていく。

それは、

恋の力によって。

そして、

彼女の体に流れる血筋が。

かつて、世界を魅了した1人の女…

安藤理恵と同じ血が、優のもう一つの才能を開花させる。



優の前から、ゆうが来た。

優は微笑み、

「牧村先生」

ゆうは優に気づき、


「高木さん」

優は笑顔を崩さず、

「先生。あたし、軽音部に入ります」

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