黄昏に香る音色 2
時と音の狭間で
「明日香ちゃん!あんたのファンって方が来てるぞ」

昔から来てくれている常連のお客さんが、店の扉を開けた。

ステージでは、音を取り戻した啓介と、

久々に阿部と原田、武田が演奏していた。

明日香が、カウンターから出て、扉に向かうと、

杖をついて、腰が曲がった老婆がいた。

「何でも…遠くからわざわざ、明日香ちゃんを聴きにきたらしい」

「ありがとうございます」

明日香は、老婆の手を取り…ステージ近くのテーブルまで、連れていく。

ちょうど演奏が終わる時で、ステージから、啓介も降りてきて、椅子の用意をする。

赤ん坊を連れた若い夫婦のテーブルと、相席になるしか、席は空いてなかった。

夫婦の了承を得て、

相席となる。

カウンターに戻ろうとする明日香に、老婆は言った。

「演奏されないのですかな?」

明日香は足を止め、

「はい…わざわざ来て頂いて、申し訳ないのですけど…」

頭を下げた。

「怪我でもなさったのですか?」

「いえ」

明日香は、首を横に振った。

「心の病かな?」

老婆は、明日香の顔を覗いた。

「だったら…あんたは、ステージに上がるべきじゃ」
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