黄昏に香る音色 2
老婆は言葉を続けた。

「ステージに上がって…トランペットを吹いてみてごらん…あんたなら、わかるはずじゃ」

「お婆さん…」

明日香は、その老婆の言葉より、

明日香を見つめる瞳に、なぜか逆らえないものと、

なつかしいものを感じた。

「明日香」

啓介は、明日香の肩に手を置き、

「カウンターは、俺が入るから…お前は、ステージに上がれ」

「啓介…」

啓介は頷いた。

啓介もまた、明日香と同じものを感じていた。






明日香は久々に、ステージに立った。

武田がカウントをとり、

原田のピアノが転がり、

曲が始まった。

バイバイ・ブラックバード。

明日香の初めての練習曲。

明日香のトランペットの音に、老婆の席にいる赤ん坊が、楽しそうに声を上げた。


楽しんでくれている。

明日香は、自然と微笑んでいた。


次の曲は、バラード。

I Fall In Love Too Easily。

奇しくも、それは…

明日香の初めてのステージと同じ曲順だった。

赤ん坊の笑い声に、誘われるように、

明日香は自然に…ステージを降りた。
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