天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「!?」

マスターは驚愕した。

常人の三倍はある…マスターの拳が、迫ってきているのに、

美奈子は微動だにせず、銃口を上に向けて、撃っていた。


「どういう意味です…女神よ」

美奈子は、寸前で止まったマスターの拳越しに微笑んだ。

「こういう意味よ」

美奈子の微笑みを、驚きの顔で見たマスターは、一歩後ろに下がった。

その瞬間、マスターの後ろで太陽が現れ…すぐに消えた。

そして、マスターは、ゆっくりと振り返り、後ろを見た。

そびえ立つ原子力発電所の向こうを凝視し…やがて、うなだれた。

「女神が…死んだ…」



その言葉に、化け物と化した人々の咆哮がこだました。

マスターは姿勢を正し、美奈子を見据えた。

「我らの…計画は終わりました。女神よ…。ここにいる者達は、もう助かりません。せめて…女神の力で安らぎを…」


戸惑う美奈子に向けて、化け物と化した人々が跪く。

「女神よ」

マスターも頭を下げた。


美奈子は手に持った銃を握り締め、目をつぶると、


ゆっくりと目を開いた。


そして、銃口を向けた。


「ありがとうございます」

マスターの声を合図に、銃声が響いた。



「部長!」

発電所の裏口から、飛び出してきた明菜の目に、灰となって消滅する化け物の大群が映った。


原形を留めているのは、マスターと美奈子だけ。


「今回…我々は、急ぎ過ぎたのかもしれません。しかし、我々は滅んだわけではありません。間違っていたわけでもありません」

マスターは、美奈子に背を向け、発電所内へと歩いていく。

「今度…我らを率いる王が…あなたのような人だったら…」

マスターは、まだ状況が把握できない明菜の横を通り過ぎる。

「…フッ」

マスターは入り口の前で足を止め、口元を緩めた。


「人…人間…。結局は……。私は、今しばらく…この世界に留まりますよ。次に目醒める者達の為に…」

マスターは振り返り、

「またコーヒーでも飲みに来て下さい」

美奈子と明菜に頭を下げると…姿を消した。
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