天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「貴様は…何者だ!」

ドラキュラは、夕陽が沈むまで眺めている空牙の横顔を睨んだ。

「これほど…魔力を感じたことがない!我々は、この前の世界大戦で、世界中のあらゆる人以上の力を持つ者達を、炙り出し…戦火に紛れて殺した!」


空牙は、沈む太陽の最後の輝きに、目を細めていた。

「しかし!これほどの力!我と同じ…バンパイアの力!それ以上を感じる魔など…」

ドラキュラの言葉を無視するかのように、空牙は夕陽に手を伸ばした。

「毎日…再生と滅びを繰り返す太陽よ…。あなたは、毎日滅んでも、美しい…」

感嘆の溜め息を吐いた空牙の横で、ドラキュラはコートを脱ぎ捨てた。

「我らの夜が来る!」

昼間大火傷をしたはずなのに、もう治っていた。

ドラキュラの両目が赤く光り、鋭い牙が、二本…口元から覗かれた。

「夜こそ!我の力を発揮できる時間!昼間のように、いくと思うな!」 

ドラキュラの両手の爪が、伸びた。

空牙は、天を仰ぎ見、

「太陽も…あなたは、素晴らしいが……月よ。あなたには、申し訳ない…」

天に輝き出した月を、見つめた。


「貴様のような猿が!我らと、同じ力を持つなど…断じて、許せない」

全魔力を解放して、向かってくるドラキュラを、見上げながら、横目でちらりと見た空牙は、

「折角…夜まで待ってやったんだ。少しは…楽しませろよ」

ゆっくりと、右手を真横に突き出した。

「死ね!」

飛び掛かってきたドラキュラの顔を、右手でつかむと、空牙はにこっと笑った。

「この程度か?」

笑った空牙に、鋭い牙がない。

「お前…バンパイアではなかったのか?」

空牙の指が、ドラキュラのこめかみに突き刺さる。


「牙を見せるのは…不粋だろ?」

空牙は片手で、ドラキュラを持ち上げると、

ゆっくりと屋上を囲む手摺りまで連れていく。

まだこの時代の手摺りは、そんなに、高くない。

空牙は、ドラキュラを手摺りの外に突き出した。

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