天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「父さん…」

食器が並ぶ前の食卓で、リョウは新聞を広げているロバートに、話し掛けた。 

岬へ行くことを、告げる為に。

ロバートは、新聞から視線を外すと、 

「……わかっている」

それだけを、リョウに告げると、また新聞に目を戻した。

「父さん……?」

少し戸惑うリョウの横に、台所にいたはずのサーシャがいた。

サーシャは食器ではなく、あるものをリョウの前に、置いた。

「これを、持っていきなさい」

それは、革のケースだった。年季か…それとも…過酷な場所で酷使されたのか…傷だらけのケースを、サーシャはリョウの前で開けた。


「これは…」

リョウは目を見開いた。

傷だらけのケースから出てきたのは、新品のように輝いている鋭利な武器だった。

「ドラゴンキラー」

サーシャは懐かしそうに、ケースに納まっているドラゴンキラーを見た。


「魔物の中でも、上位種に入るドラゴン種を、倒す為に、作られた武器だ…」

いつのまにか、ロバートは新聞を畳んでいた。

「母さんの先祖は…ドラゴンハンターだったのさ」

ケースの中には、ドラゴンキラーだけでなく、エンブレムも入っていた。

漢字で、黙と刻まれた紋章。


「これを、持っていきなさい」

サーシャは、リョウに言った。

「岬まで、何があるかわかりません…。このドラゴンキラーが、あなたを守ってくれることでしょう」


リョウはケースの中から、ドラゴンキラーを取出した。

ずしりと重い。思わず、手から落ちそうになる。

「こんなの使えるのかな…」

持っただけで、自信がなくなってきた。

「女神の十字架を抜こうとしているやつが…これくらいで、重いだと…やれ、やれ…」

ロバートは心配そうに、ため息をついた。

「慣れれば、大丈夫よ」

サーシャは笑い、リョウの顔を覗き込んだ。

「これには、いろんな人の思いがこもっているの…」

「いろんな人?」

サーシャは頷き、

「あたしや、お父さんは勿論…ご先祖様や…」


「女神もな」

ロバートは、リョウの顔を見つめ、

「天空の女神も使ったことが、あるんだよ」


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