天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

死にたくない

「行ったか…」

村の入り口にある俊介の家の前を、リョウとフレアが通り過ぎていった。


パジャマのまま、中から家のドアにもたれ…俊介は、二人が通り過ぎるまで、そこにいた。息を殺し…本当の気持ちも殺しながら。


「リョウ…フレア…」

本当は、いっしょに行きたかった。

だけど、行って帰ってくる時間があるか、わからなかった。

いよいよ…結界に走ったヒビは、大きくなり…そこから、身の毛もよだつような咆哮が、聞こえてきた時、

俊介は、もう駄目だと思った。

まだ結界が崩壊したわけではないから、みんなが寝静まった真夜中しか、きこえなかった。

そのことが、さらに俊介を恐怖させた。


「リョウ……フレア……」

俊介は踞り、泣き出した。

「母さん。死にたくないよお……」


だが、その願いを叶えてあげる程の力を持った戦士は、この時代にいなかった。






村を出たリョウとフレアは、真上を見上げた。

早いといっても、五時半くらいだ。

普段なら、起きている人はいた。

しかし、村は静まりかえり、人の気配がしない。


もう汗水垂らして働く理由は、なくなった。

生きる為…食べる為に働くなら…もう、それをやる必要はない。

結界が消えた瞬間、人は終わるのだ。


「空が、割れていく」

リョウは、真上を見上げ、絶句した。

ヒビが入っていくスピードが、昨日より明らかに速い。

目でわかるレベルだ。

そのヒビから、ドラゴンの咆哮や…他の魔物の声が染み出るように、聞こえてきた。

震える大気。


リョウは思わず、ケースの中からドラゴンキラーを取出して、天にかざした。

「来るならこい!僕が、お前達を倒してやる」

まだ装着することも、不慣れな姿を、横で見ながら、フレアはただ嬉しそうに、笑った。
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