天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「あれから…ほんの数十年で、人の意識は変革され……この世界で生き抜く為に皆、懸命に努力しています!しかし!」

ゾルゲは、アートに詰め寄った。

自分よりも、少し背の高いアートを見上げ、真摯なる瞳で見つめた。


「しかし!人類の旗印がないのです!」

ゾルゲの視線を避けることなく、アートはこたえた。

「赤星浩一がいるでしょ?それに、天空の女神もいる」

「天空の女神は、ティアナ様の娘であるが、魔王の娘でもある!彼女は、正統な魔王の後継者です!」

「だったら、赤星浩一は?」

「彼は……」

ゾルゲは言葉に詰まり…少し考え込んだ。

アートは、ゾルゲの言葉を待つ。

数秒後…ゾルゲは、言葉を続けた。

「彼は…民衆にも人気がある…。力もある。しかし…彼が、破壊したんだ…」

ゾルゲは唇を噛み締めると、アートを睨みながら、

「カードシステムを!防衛軍を!私達の誇りを!」

「……」

ゾルゲの瞳から、涙が流れた。

「私達の誇りを、踏み躙った彼を、私は許せない」


「しかし…防衛軍は腐敗していた。ポイントの回収に躍起になり、人々を苦しめていた」

「だが!あなたなら!」

ゾルゲはアートの手を掴んで、握り締めた。

「あなたなら……新しい組織を作るはずです!あなたならば」

すがりつくゾルゲの手を、アートはゆっくりと解くと、首を横に振った。


「私には、そんな資格はないです。私は…友を救えず…愛する人も守れなかった…」

アートはそう言うと、プロトタイプカードを指で摘んだ。そして、ゾルゲに顔を向けると、

「……しばらくは、この遺跡には、魔物は来ないと思います」


「アートさん…」

微笑むアートに、ゾルゲは呆気に取られた。

「さよならです」


「アートではない!……あなたは…」

ゾルゲの言葉を最後まで聞く前に、アートはカードの力を使い、テレポートをした。




遺跡より、数百キロ離れた海岸線近くのそりたった崖に、アートは降り立った。

そして、ふと…上空を見上げた。

「星?」

まだ明るいのに、空が煌めいたのだ。

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