天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
日本から離れ、今は廃墟と化したワシントン。


炎の女神ネーナの襲撃によって、自ら核を使用したことにより、自滅したワシントンは数年後、

その周辺で何とか人々は少しつづ生活を取り戻そうとしていた。


放射能は薄らぎ、人体に影響はなくなった。しかし、一度崩れた治安はもとには戻らない。


精霊も妖精も…魔物も寄り付かない廃墟では、少ない食料を奪い合う弱肉強食の世界となっていた。


魔法を使えない人々は、銃やナイフでいがみ合い、殺し合っていた。

銃声が轟き、倒れた人間にナイフを突き立て、金ではなく、食料を奪う。

通貨は、ここでは意味がなかった。

もともとアメリカは、防衛軍に参加していなかった。

ボランティアとして、元防衛軍の戦士がアメリカの治安回復の為に、何人も上陸していたが、

核により汚れた土地に、パートナーである妖精や、精霊が嫌がっている為に、ボランティアもなかなか近づくことはできなかった。

そんな土地に、大量の食料を持って入ったアートはつねに、命を狙われていた。


無償で渡すと言っても、襲い掛かってくるのだ。

仕方なく、各地に食料を置きながら、逃げ回っていた。

アートはその間に、人の醜さを見ていた。

ルールも倫理もない世界では、人は獣と変わらなかった。


人の肉を食っている者もいた。

あらゆる惨劇に、顔を背けていると、近づく気配を感じさせずに、アートの後ろに誰かが立った。


「テレポートか…」

アートは後ろを見ずに、その現象を理解した。


「さすがですね。愚かな人間達の中で、唯一の人の可能性を信じ続けた人だけのことはあります」

後ろに立つ男は、まるで生気を感じないけどに、顔色が真っ白である。


「今更どうして、私の前に来た。君達は、我々の呼掛けを無視したはずだ」


アートの言葉に、男はフッと笑い、肩をすくめた。

「私達は、ただ無謀な戦いに参加する気がしなかっただけですよ。わざわざ犠牲者を出すことはない」
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