天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
女という魔物と、男の野心
ジェーンへのダウンロードを見届けた後、外の世界へ出かけていたソリッドは、王国に戻っていた。

あまりにも破壊されたドーム内の状況を確認し、唇を噛み締めていた。

アステカ王国というが、国自体のつくりは、移動都市に近い。

巨大な岩盤を海底に沈め、その上にドーム状の居住区を作っていた。

かつては、地上にあったが、ノーマルの人間に迫害され、海底へと逃れたのだ。

ロストアイラインドへ逃げ込んだ…エルフの血を引く人々に、境遇は似ていた。

一人一人の力は、ノーマル人よりは強いが、体力や寿命が明らかに劣っていた。

さらにノーマル人が、魔法を行使できるようになり、組織力を身に付けるようになると対抗できなくなり、彼らは海底へと逃げたのだ。

それは、安定者が支配する前、元老院の時代のことである。

たまに、ノーマル人の中にもサイキッカーとして目覚める者もいた。そういった者は率先して、戦場に送られ、戦死した。

カードシステムという曖昧で強力なものに誤魔化されて、魔力と超能力の狭間で、死んでいったのだ。



人は一人一人が同じではないのに、違うものを否定する。

だが、特別にもなりたいと願う。

蟻のように役割を分担され、その通りに働くだけの人生なら、社会は円滑に回るのだろう。

しかし、人はそんな風にはできていない。

同じような姿をしながら、争う人類を、

知性ある生物は笑う。

滑稽で、醜いと。



「あんたも、そう思っているのか?」

穴が開いた天井を見上げていたソリッドは、真後ろへ振り返った。

「どうかしら?」

白い壁にもたれるストレートヘアーの女は、肩をすくめた。切れ長の瞳と、透き通るような肌。

女の名は、リンネ。

魔王に次ぐ実力を持つ魔神。

「俺は、お前に言われた通り、異世界から来た女の中に、ジェーン様をダウンロードした!」

ソリッドのどこか…興奮したような口調と、どこか漂う懺悔感が、リンネには気持ちよかった。

本人が懺悔感に気付いていないのも、心地よかった。

(人間の男の…こういうところが面白いわ)



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