天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「つまり…魔王が本気になったと…いうことか」

ジェーンの言葉に、カルマは頷いた。

「は!……?」

カルマは妙な雰囲気を感じ、顔を上げた。

すると、目の前に口元を緩めたジェーンの顔があった。

「!?」

カルマは、目を見開いた。

その表情は明らかに…笑っていた。

それも、自嘲気味に。


「ジェーン…様?」

カルマは、恐る恐るジェーンに声をかけた。

異質な笑み。

その笑みには、嬉しさもあった。


カルマは、そのまま…再び頭を下げた。

この場にいてはいけない。

カルマの本能が告げていた。

だから、そのまま…カルマはテレポートして、寝室から消えた。





「くくく…」

カルマがいなくなって、数分後…ジェーンは声を出して、笑った。

自分では、嬉しくて仕方がないように笑ったつもりだが、泣いてるような声になった。

だけど、その事実にジェーン自身は気づかない。


「魔王が…殺してくれる」

ジェーンは、再び顔を鏡に向けると、自分自身を睨み付けた。

「こんな醜いあたしを」

明菜の顔…。

アステカ王女となり、何度も他人の肉体を乗っ取ってきた。

物心ついた時には、自分の顔がわからなかった。


王女として、存在する意義は、肉体にはなかった。


だけど…この前の姿こそが、自分だと思いかけてた。

(知らない顔…)

ジャステンに出会うことで、彼女は自分自身の姿に、アイデンティティーを持ちかけていた。


「あたしは…どこにいる?」


ジェーンが鏡を睨み付けると、明菜の顔が映った表面が砕けた。

「くっ!」

苦悶の表情を浮かべたジェーンは、自らの変化に気づかなかった。

瞳から流れた一筋の涙。



それは、本人に自覚がなかった故に。

その涙は、心の奥から流れたものだから。


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