天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
馴れ合いの音符
ため息すら…出ない。


涙も流れなかった。


冷静に、事実を受け止めてるわけではなく、

他人事のように冷めているわけでもない…。

ただ…すべてが終わったような脱力感だけが、残っていた。





「ジェーン様…」

王の寝室に置いてある鏡の前で、自分の顔を見つめ、動かなくなったジェーンに、後ろで控えていたカルマが声をかけた。

もう小時間は、動かないジェーンの身を案じて、たまらずカルマは、沈黙を止めたのだ。

「…」

ジェーンは少し眉を痙攣させた後、うっすらと笑った。

その後すぐに、唇の端を引き締めると、軽く自分の顔を睨んだ。

「状況はどうなっている?」

ジェーンはそのまま振り返ると、片膝を床につけているカルマを見下ろした。

「は、は!」

自分を見るジェーンの瞳の冷たさに、カルマの背筋が一瞬凍り付いた。


しかし、反射的に頭を下げると、ジェーンの視線から逃れ、カルマは言葉を続けた。


「昨日…炎の騎士団と思われる魔物の大軍が、ロストアイランドといわれる大陸を蹂躙!一瞬のうちに、大陸全土を焼ききり…ロストアイランドに住むすべての人間…いや、生物を燃やし尽くしました」


その事件は、普通の人間の間には、話題にすらなっていなかった。

もともとロストアイランドは、魔王に幽閉された者や、人に混じっている者達が逃げ込んだ大陸である。

隔離された大陸など、人々には実感のない…架空の世界に近かった。

しかし、一部の世界を感じることのできる者達は、その事実に驚愕していた。


魔王ライは、先代レイとは違い…人々をただいたぶり、殺すことはしないと思われていた。

妖精や精霊の力を封じ、人々から魔法を奪ったりしたが、圧倒的な力で直接蹂躙することはなかった。

出過ぎた勢力を、騎士団で殲滅したことはあるが、

あくまでも、人間の自滅を誘っているように感じられた。



だが、今回…魔王は、ロストアイランドを力で皆殺しにしたのだ。

その事実に、力ある人々は戦慄を覚えた。




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