天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「あああ~」

小刻みに震え、口をパクパクしだすジェーンの頭から、

アルテミアは手を離した。


やるべきことは、やった。

これ以上やると、脳に障害が残るかもしれない。

繊細な作業を終え、アルテミアはほっと胸を撫で下ろした。


「明菜…戻って来い」


ジェーンの体が、痙攣するかのように、一度軽く飛び上がると、

そのまま床に、横から倒れた。


(後は…様子を見て)


明菜の人格が呼び覚まされるのを、待つだけだ。

複雑な作業を終え…緊張感から、解放された一瞬の緩み。

それは、ジャスティンも同じだった。

安堵するという気持ちの緩みが、

突然、玉座の間に現れた者を認識するのが、遅れた。




「ライ!」

アルテミアが気付き、襲いかかろうと思うより前に、

ふっ飛んでいた。

「な…」

気づいた時には、玉座の間の壁を突き破り…さらにいくつもの壁を突き破っていた。


「そ、そんな…馬鹿な…」

何枚目かの壁に激突し、止まった時、

アルテミアは絶句した。

自分の体の真ん中に、空洞ができていた。

動きを見切ることは、できなかったが、

アルテミアに穴をあけた攻撃はわかっていた。


信じられないが…

ただのパンチだ。



「あ、あたしが…」

アルテミアは口から、血を吐いた。


「一撃で…やられるなんて…」

話すことも、辛くなってきた。


バンパイアの回復能力をもってしても、土手っ腹に大きくあいた穴を塞ぐことは不可能だった。


「く、くそ!」


このままでは、死ぬ。


昔のように、肉体を捨て、精神体になり、

誰かと融合することは、可能だろう。

しかし、アルテミアは悟っていた。

今の最高の状態の自分が、まったくかなわない相手に、誰と融合して勝てるというのか。

それに、このままでは…自分の肉体は死んでしまう。

しかし、どうすることもできない。

先程のジャスティンの言葉が、過った。

自分の肉体を持たない精神だけの存在は、他人の肉体を得ても、劣化したコピーでしかない。

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