天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
九鬼は、黒の乙女ケースを握り締め、その表面を見つめた。

「…黒い…力」

兜は、九鬼の手にある乙女ケースを見つめた。

「今の君には…ぴったりだろ?」

兜の皮肉にも、

「そうですね…」

九鬼は微笑み、頭を下げると、

「いってきます」

扉を開け、外に出た。



扉が閉まっても、兜はしばらく…じっと九鬼がいた場所を見つめていた。

やがて、深く息を吐くと、自虐的に自分を責めた。

「だから…学者って、やつは…」

自ら戦地に赴くではなく、ただ戦士を送り出し、

結果を待つだけだ。

「結局…俺は、あいつに押し付けただけだ…。戦う理由を」

兜の脳裏に、初めて会った頃の九鬼の姿が浮かんだ。

漆黒の闇に、自らの血で色を塗る少女。

「ただの少女ではないか…」

兜は苦笑し、少し目眩がしたのか…ディスクに手をついた。

「もし…あいつがあの日々を経験してなければ…堪えられなかったと思う…。例え、月の光を手にいれたとしても…」

そして、ディスクの下の引き出しを開けた。

(闇という牢獄で、あの子は死に絶えただろう…。だけど!)

兜は目を瞑った。そこには、もう一つの乙女ケースがあった。

(渡せなかった!)

兜の頭に、血塗れの少女の映像がもう一度、恐怖とともによみがえった。

兜は頭を振ると、考えるのをやめた。

「それでも、心配ないさ…あいつならば」

自分で自分を納得させた。
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