天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「最近…人殺しが多い」


書類や資料が乱雑に置かれたディスクの前で、先ほど上がったばかりの紙面を睨みながら、男は呟いた。

無精髭と、ボサボサの頭とよれよれの背広は、その男の性格を表していた。


「殺しは、珍しくないでしょ?毎日、どこかで魔物に人間が殺されているんですから」

その後ろのディスクにいた男は、生欠伸をした。

「魔物じゃない。こりゃ〜あ、人だ」

無精髭の男の言葉に、背中を向けていた男は振り返った。

「魔法の誤作動ですか?それとも、ギルド間の揉め事?」

無精髭の男は、頭をかき、

「誤作動なら、ただの事故だ。ギルド間でも、殺しはご法度…いや、この世界では、人が人を殺すことは、一番の罪だ」

「それは、当たり前ですよ。魔物が常にいる世界…人は、助け合わないと…生きていけない」

「そうだ…それが、この世界の建前だ」


野生の動物は、同種を殺すことはない。

余程のことがないかぎりは…。

この世界では、人間は上位種ではない。

それなのに、ここまで発達したのは、人間が協力していたからだ。


「まあ…アメリカや国家間ではいろいろあっただろうがな…」

無精髭は立ち上がり、ディスクから離れた。

「後藤さん。どこに行かれるんですか?」

背伸びをしていた男は、後藤の背中に声をかけた。

「調べてみる」

後藤は、男に向かって手を上げると、事務所の出口に向かって歩き出した。

「もし…人殺しなら、警察に任した方が!」

男の声を無視して、

後藤はドアノブを掴むと、事務所から出た。



「いくぞ」

廊下に出ると、1人の妖精が宙に浮かんで、待っていた。

妖精と契約している一般人は、珍しい。

大体は、魔力を帯びた武器を使用している。

余程、人がいない土地を旅するなら別だが、

カードシステム崩壊後は、防衛は市販されている道具に頼っていた。

勿論、使用数は決まっている。

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