天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「きゃああ!」

放課後の校長室に、悲鳴がこだました。

頬をぶたれ、紅のジュータンに倒れた梨絵に、

「この役立たずが!」

リオが罵声を浴びせた。

「折角、手に入れた乙女ケースを!奪われるなんて!そ、それも!」

リオは右足で、梨絵の頭を踏みつけた。

「ジャスティンの弟子に、とられるなんてえ!なんたる失態!」

「ご、ごめんなさい!お姉様…」

絨毯にめり込んでいく梨絵の顔。

リオはさらに、足に力を込めた。

「お姉様…」


苦しむ梨絵の声に、部屋の奥にある巨大な机の上に、両膝を置いていた男が、溜め息とともに口を挟んだ。

「もう…それくらいにしておきなさい。まだすべてが、終わった訳ではないのだから」

机の向こうにいる男に、リオは踏みつけながら振り向いた。

「しかし…お父様」

「乙女レッドを失ったとしても、こちらにはガーディアンの力が残っている」

無精髭と、銀縁の眼鏡をかけた男は、フッと笑った。


「それに…ジャスティン・ゲイを敵にまわす訳にはいかない。彼らは、民衆に人気がある。我々がつくる組織にも、象徴として参加して貰いたいしな」


その言葉に、リオはにやりとし、

「単なる飾りですね」

また力を込めた。

「そうだ…」



リオ達…姉妹の父親にして、新たなる組織の実質的統治者になろうとしている男。

彼の名は、結城哲也。


「それに…我々には、切り札がある」

哲也のかける眼鏡のレンズが、一瞬…輝いた。

「そうですわね」

リオは笑いながら、梨絵から足をどけた。


「我々が、月の女神の力を得るのは…必然!さすれば、いかにジャスティンと言えども、手を出せなくなる」

「クス」

リオは嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。

「所詮…やつも人間。神の力には、勝てん」

哲也は眼鏡を外すと、虚空を睨んだ。
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