天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
乙女ピンクこと―カルマを救出した闇に侵された者達が、帰還した場所は、

実世界の教会に近い建物だった。

しかし、その建物に掲げられた十字架は、

単なる十字架ではなかった。


十字架に似た剣。

かつて、この世界を掌握する歴代の魔王達と戦った勇者が、手にしていた…剣。


しかし、実際に…その剣を振るう勇者は、いない。


剣のオブジェで守られた扉を潜ると、

老人達は足を止めた。


建物の中は、単純であり、

入るとすぐに、礼拝堂があった。

その奥に、居住空間がある。

老人は苦笑した。

祭壇の前で跪き、祈りを捧げる男がいたからだ。


「何の冗談ですかな」

老人は跪く男の背中に、声をかけた。

「くくく…」

祈りを捧げている男の背中が、震えだした。

そして、ゆっくりと立ち上がると、

老人に向かって振り返った。

「冗談ではありませんよ。何もできない神に、慰めを与えていただけですよ」

にこっと微笑む男は、タキシードの裾をはたいだ。


「闇の使徒である貴方様が、神に祈るなど…ナンセンスじゃな」

老人の言葉に、タキシードの男は肩をすくめ、

「そうですかね。神だって、祈りたくなる時があるかもしれませんよ。助けてほしいとね」

その言葉に、老人は目を細めた。


「それが…闇の女神の本心…かな?」

「え?」

タキシードの男は、目を丸くした。


「女神は、我々に救いを求めている」

老人は、タキシードの男の瞳の奥を探るように、じっと見つめた。

「ほお〜」

タキシードの男は、感心したように背中を反らすと、

「これは、これは…」

つねにたたえている笑みを封印した。

老人の後ろにいた闇に侵された者達にも、緊張が入る。

老人は、後ろの様子に気付き、

「お前達は、奥にいけ。ここからは、わしだけが話す」

礼拝堂から出ることを促した。

「し、しかし…」

最初は、躊躇っていた者達も、老人の前にいるタキシードの男の異様な雰囲気に、唾を飲んだ。
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