天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
危険を感じ、その場から立ち去りたいが、

その為には、タキシードの男の横を通らなければならない。


どうしたらいいのか…狼狽えてしまう者達に、

タキシードの男はいつものように、笑いかけた。


「どうぞ。緊張なさらずに、皆さんには危害を加えませんよ」


その笑顔に、余計に体が凍りついたが、

人々は知っていた。

言う通りにしなければいけないと。


何とか一歩を踏み出すと、まるで弓矢のように、

人々は走り出した。


「皆さん。あまり急がすに!特に、生け贄を担いでる方は」

タキシードの男は、カルマを運ぶ男達に、笑顔を向けた。

「ひ、ひぃい!」

悲鳴を上げながら、タキシードの横を通りすぎる者達がいなくなると、

礼拝堂に静けさが戻った。

タキシードの男はため息をつくと、

目の前に立つ老人を見て、首を傾げた。

「おかしいですねえ。確か…脳は、最初に侵食されたはずなのに」


その言葉に、老人は歯を食い縛った。

「そうじゃ!しかし、まだ完全に侵食された訳ではないわ」

老人の腕から、皮膚や肉を突き破って骨が飛び出し、

それが剣になった。

「元ブレイクショットの1人!鋼鉄の漸次!例え、闇に侵食されようが、己のやることは見失わん」

漸次は、剣を振り上げ、

「この一瞬の為!我は、最後の自我を残していた」

タキシードの男の脳天に向けて、振り落とした。

「この身が、人間でなくなろうとも!」




「いやはや」

タキシードの男は避けることなく、ただ首を横に振った。

「これだから、人間は嫌いです」


漸次の振るった剣は、タキシードの男に突き刺さることはなかった。

剣は、タキシードの男の頭上…数ミリ上で止まっていた。

漸次は感触で、それがどういうことかわかっていた。

見えない何かに、受け止められたのだ。


「な」

驚愕する漸次の目が、何もないはずの刃の下に、

何かが形作られていくのをとらえた。

それは、闇。

刃の下だけに、闇が現れるのを目視できた。

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