天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
地面から突き上げるように、全身をバネにした掌底は、

カルマの顎先を突き上げた。

普通の人間なら、脳が揺れるはずだ。

しかし、乙女ソルジャーになっているカルマは、

平然と笑うと、攻撃直後の無防備な九鬼の腹に、膝蹴りを喰らわした。


「クッ!」

全身が浮き上がる程の蹴りを受け、

一瞬、

九鬼の意識が飛んだ。

そんな無防備な状態の九鬼に、

振り上げたハンマーの軌道を変えると、

横合いから、九鬼の脇腹目掛けて、叩き込んだ。

くの字に曲がった九鬼の体が、礼拝堂の端から端までぶっ飛んで、

反対側の壁に激突した。

「うう…」

一瞬、壁にへばりついたようになった九鬼が、床に落ちると、

血がべったりと、へこんだ壁についていた。


「終わったな」

カルマはハンマーを消すと、今度はライフルを九鬼に向けながら、ゆっくりと近寄っていく。

「後は、乙女ケースを回収すれば」

ライフルを九鬼のこめかみに向け、

気絶したと思われる九鬼の体から、乙女ケースを探そうとしたが、

カルマは眉を寄せ、

「やはり、とどめをさしてから」

しゃがむ前に、引き金を引いた。



銃声が、礼拝堂に響いた。


しかし、

ライフルから放たれた銃弾は、

九鬼に当たることはなかった。

弾丸は、天井近くの壁を撃ち抜いていた。

突然、顔を反らしながら、起き上がった九鬼は、

肩を突きだし、ライフルの銃身を跳ね上げると同時に、

痛めてるはずの足で、カルマを蹴り上げた。



「ククク…」

その様子を、いつの間にか礼拝堂の奥に現れた…タキシードの男が、見ていた。

「ついに、始まる」


立ち上がった九鬼の目には、生気がない。

しかし、ぞっとするような鋭さを放っていた。




そして、九鬼は右手を突きだした。

そこには、黒い…乙女ケースが。


いや、黒よりも黒い…闇色のケースが、握られていた。

「装着…」

覇気のない声を、九鬼が発すると、

彼女の後ろに、

もう1人の九鬼が出現した。
< 1,465 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop