天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「雨……」

突然降りだした激しい雨よりも、あたしの頬を伝うものの方が、あたしを濡らした。



「あたし…。何やってんだろ……」

1人で無理して、1人で演じて……1人じゃなくて、もう一人傷つけた。


中島を傷つけた。




あたしは…あたしは…。


もう考えているより、走りだした。 

頭で考えたら、駄目だ。

素直な気持ちにならなくちゃ駄目だ。

屋上から下へ降りる階段に、たむろしている男達の間をかきわけて、あたしは飛ぶように階段を降りる。


「理香子!」

人混みから、九鬼がカバンを渡してくれた。

「ありがとう!」

あたしは、走る。





校舎の入口で、雨の中…出て行こうとする中島の背中が見えた。

走りながら、カバンから折り畳み傘を取り出した。



また、知らない女が近づいて来て、中島を傘に入れようとする。


(駄目!)


あたしは、手を伸ばした。

必死に、ただ必死に。




「え?」

いきなり、変な方向に引っ張られ、よろめいた中島は、別の傘の下に無理やり、押し込まれた。


「まったく!最近、天気おかしいんだから、折り畳みくらい持って来なさいよ!」

いつもの強がりを言って、あたしは顔を背けながら、中島の腕を掴み、引きずるように、歩きだした。


中島は、後ろ歩きになっているのに、あたしは気付かない。

「ち、ちょっと」

何とか体勢を変えると、中島は前を向き、照れてるあたしを見た。

「俺のことを…何とも思ってないって…」

あたしは、その言葉を遮った。

「さっきの女は、誰?」

「え!…演劇部の先輩で…」

「どうして、傘に入れてもらってるの!」

「帰り道がいっしょで…」

あたしは、次々と中島にきいた。

(そう言えば…あたしは、中島にこんなこと…きいたことが、なかった)
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