天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「ちょっと変えてみました!」

元気よく立ち上がり、笑顔を向ける美亜の眼鏡の奥にある瞳を、九鬼は観察しょうとした。

「阿藤さん…」


しかし、そんな余裕はなかったのだ。

突然、朝が終わったからだ。


「な!」

眩しいばかりの朝の木漏れ日が消え、真っ暗になった廊下で、九鬼は反射的に窓の外を見た。

九鬼の視線が外れた瞬間、にやりと口元を緩めた美亜は、

「こ、こわいです!」

パニックになったかのように、廊下を走り出した。


「阿藤さん!?」

その声に気付き、九鬼が視線を戻した時には、背中を向けて全力で走る美亜の姿が遠ざかっていた。

「チッ」

すぐに追いかけようとしたが、今度は後ろから声をかけられた。

「会長!」

振り返ると、副会長の桂美和子が慌ててかけよってくるのが見えた。

「どうしたの?」

九鬼は美亜を諦め、美和子のように体を向けた。

「突然のことで、早くも一部の生徒がパニックになっています!至急指示を!」

「わかりました!」

各クラスの電気がつき、何とか廊下も明るくなった。

放送室に向かおうと走り出した九鬼は、さらなる怪異を確認した。

「月が…赤い?」

校舎と校舎をつなぐ渡り廊下から、見上げた月が…血を吸ったように真っ赤になっていたのだ。

思わず足を止めそうになる九鬼に、前を走る美和子が叫んだ。

「会長、早く!」


九鬼は、上空にある月から強力なムーンエナジーを感じていた。

それは、月影である九鬼の体を照らし、異様な力を与えていた。

(何だ?このムーンエナジーの量の凄さは!?)

まるで、九鬼に戦えと言っているように思えた。


「会長!」

美和子が急かす。


仕方なく美和子とともに、九鬼が向かった場所は放送ではなかった。


「美和子さん?」

九鬼は途中で気付いたけど、美和子の後をついていくことにした。

なぜなら、彼女は優秀な生徒会副会長だからだ。
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