天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
そして、理香子の戦闘服の首許を掴むと立ち上がり、九鬼は天に向けて理香子を投げた。

「真弓!」

理香子ははっとした。九鬼の顔が、思い出の中の顔と重なった。

銀色の戦士に。

「あなたは...ま、まさか!あなたが!」

空中に浮かぶ理香子が、絶叫した。

しかし、その叫びを九鬼の叫びが遮った。

「中島は生きている!瀕死の重症を負ったけど!」

「え?」

「だけど!中島はもう…人間じゃない!それでも、愛しているんなら!帰れ!」

理香子の上にある実世界への道が閉じていく。

「真弓!」

「行け!」

九鬼の叫びに、理香子は頷くと、戦闘服の背中に翼が飛び出した。

「せめて!あたしの力を!」

理香子は地上に向けて、手を差し出した。

九鬼のそばに落ちている乙女ケースに向かって。


「理香子…」

理香子の姿が、天に上がると…やがて、見えなくなった。

すると、空はこの世界の空になり、結界はもとに戻らずに、すべて砕け散った。


「月の女神は逃がしたか…」

理香子を見送っていた九鬼は、振り返った。

「まあ…いい。闇の女神の力は手に入れたしな」

結界が消えた為に周りから吹き込んでくる新しい風が、ブロンドの髪をなびかせた。

九鬼の前に立つアルテミアは、じっと見つめていた。


「アルテミア…」

九鬼は唇の端をきゅっと引き締めると、そばに落ちている乙女ケースを掴んだ。

「赤星綾子の敵!討たしてもらう」

「赤星…綾子…」

アルテミアはその言葉に、目を見開いた。

九鬼は、乙女ケースを突きだした。

「装着!」

九鬼の体を、黒い光が包む。

そして、黒い戦闘服は九鬼を包むと、色を変えた。

輝くシルバーの姿に。

まるで、酸化していた銀が磨かれたように。

「月夜の涙!乙女シルバー見参!」

九鬼は変身と同時に、ジャンプした。

月に向かって。

赤い月の下で、九鬼の体が舞う。

それも数え切れない程。

「月影!流星キック!」

分身した無数の九鬼が、蹴りの体勢で、アルテミアに向かって落ちていった。
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