天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
アルテミアは目を瞑ると、両手を下ろした。

防御をまったく取らない。

無数の蹴りをすべて受けた。

「何!?」

アルテミアの後ろに着地した九鬼は、絶句した。

今放てる最強の技を放った。

それをまともに受けたのに、アルテミアは微動だにしなかった。

「クッ」

九鬼は立ち上がり、アルテミアの背中に向かって構えた。


「お前は、赤星の妹の知り合いなのか?」

アルテミアは振り返った。

「そうだ!友達だ」

九鬼は、蹴りの体勢に入る。

「そうか…」

アルテミアは振り向いた。

「!?」

九鬼は目を見張った。

その優しげな笑顔は、今対峙している九鬼の心も奪う程だった。

アルテミアはフッと笑うと、 九鬼を見つめ、

「月影に関わる人間は、すべて…己の欲望の為に、力を得ようとしている者ばかりだと思っていた。しかし」

アルテミアは、九鬼に背を向けた。

「お前のような者がいたとはな」

ゆっくりと歩き出すアルテミアの背中を見ていると、九鬼は攻撃することを躊躇ってしまう。

とても悲しく…切ない背中。


「他が為に…戦う最後の月影よ。またどこかで、会おう」

アルテミアの姿が消えた。



「…チッ…」

しばらくアルテミアの消えた空間を、見つめてしまった九鬼は、舌打ちしてみた。

しかし、なぜだろうか…悔しくはなかった。

それに、逃げられた訳ではなかった。

見逃してくれたのだ。


九鬼は銀色の眼鏡を外した。

空を見上げると、赤い月は消え…灼熱の太陽がグラウンドを照らしていた。



「え!」

「何だ…」

「何があったの?」

意識を失っていた生徒達が、目覚めた。

彼らはすぐに、目にすることになる。

戦いの跡を、傷跡を。

死んだ人達は、戻らない。

そして、生き残った者は、何があっても生きていかなければならない。

それが、誰もが持つ…平等の宿命だから。
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