天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「お、お前だって、出られないだろうが!」

神流は、ロバートに向かって叫んだ。

ロバートはただ、笑みを浮かべ、答えない。

「出れる方法が、あるんだろが!だから、そんな余裕があるんだろが!」


「我々は…人を守る立場にいる。すべての人が、魔物と戦える訳では、ないからな。だけど…」

ロバートは右手に、ドラゴンキラーが装備し…哀しげに神流を見た。

「人は…容易く、闇に墜ちる。快楽…強さ…欲望…。人は、独りでは生きられないのに…」


「あ、あたしを!そんな目で見るな!」

神流の絶叫とともに、最後に残っていた顔が盛り上がり…狐のような形に変わる。

そして、大きく裂けた口から、炎が放たれる。

ロバートは、それをドラゴンキラーで切り裂くと、

神流の後ろまで、一瞬で移動した。

「人だったお前を、殺すのは忍びない…。せめて、この地で、独り…孤独を彷徨うがいい」

「な!」

神流が振り返った時、ロバートの前の闇に亀裂が入り、光が零れていた。

「空間を切れる能力があれば、ここから出れるが…お前はどうだ?」

ロバートの半身が、亀裂の中へ消えていく。

「待て!」

近づこうとする神流に、ロバートは笑みでこたえた。

「せめて…希望だけは残してやろう」

ロバートは右手を伸ばし、ドラゴンキラーを突き出した。

ロバートが消える瞬間、ドラゴンキラーの先だけが残り…針の穴程の綻びか、空間にできた。

「てめえ!」

近寄った神流の瞳より、小さな穴の向こうで…砂嵐ただけが見ることができた。


ドラゴンキラーを抜き、砂漠に降り立ったロバートは、後ろを一度振り返ったが…

針の穴程の空間の綻びを、もう…確認することは、できなかった。


「終わったか…」

ロバートはすぐに前を向くと、砂嵐の中で立ちすくむクラークを凝視した。

そして、その向こうに立つ異様な魔力を発している…西園寺に気付き、

ドラゴンキラーを一振りりした。

「人は…強くても、弱くても…人でなければならない」

ゆっくりと、二人に近づいていく。


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